2012年4月13日金曜日

第20回例会発表概要 浅田秀子

2012年5月13日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第20回例会の発表概要、浅田秀子さんの発表の紹介です。

【タイトル】「シューベルト『冬の旅』の裏物語--冥界のヘルメス」

【概要】ヴィルヘルム・ミュラー作詩、フランツ・シューベルト作曲の歌曲集「冬の旅」は、これまで詩の内容が暗くて変化に乏しく、意味不明の言葉や表現があって「難解」と思われており、解釈者によってさまざまな憶測や自由連想を生む原因となってきた。

しかし、この「難解」な原詩は、実は表面上の単調で月並みな物語の裏に、発音の類似した語句を掛詞ないし地口のように使って、まったく別の物語を隠していたのである。裏物語のためにその発音の語を使わなければならないという制約から、意味的に不自然だったり押韻の規則を破ったりせざるを得なかったわけで、ミュラーが3流詩人だからいい加減な詩しか書けなかったという批判は不当そのものである。

その隠された裏物語とは、ギリシャ神話世界である。主人公は旅・交易・盗みの神ヘルメスで、冥界の王ハーデスに誘拐されて女王となっているペルセポネに冥界へ求婚しに行き、一度は連れ帰ることができたが、結局去勢され重傷を負って、オリュンポス3大神に見取られながら死んでしまい、死後エリュシオンの野に再生すること、そしてヘルメスのより古い神話での神プリアポスとヘルメー像の中で合体するという、神話世界の歴史を往還する壮大のスケールのスペクタキュラーな物語である。

今回の発表では、まずタイトルがなぜ「冬の旅」なのか、という点から出発する。ミュラーの詩の下敷きとなったウーラント作詩、クロイツァー作曲の「9つのさすらいのうた」を紹介するとともに、この第8曲から本歌取りされて「冬の旅」ができていること、ウーラントの詩自体もギリシャ神話に基づいていることを説明する。

次に、「冬の旅」に関連の深いギリシャ神話を資料とともに紹介し、予備知識を得たところで、第1曲から順に「冬の旅」の裏物語を、時間の許すかぎりたどっていくことになる。

内容は主に原詩についての解釈で、シューベルトの改変や作曲にもヒントをもらいながら、ミュラーの表そうとした詩世界の玄妙さを受講者の方にもぜひ味わっていただきたいと思う。

【担当】日本語コスモス代表、日本大学非常勤講師 浅田秀子(辞書編集者、日本語研究者、日本語教師、メゾ・ソプラノ歌手)

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