2013年3月31日日曜日

第12回東京例会発表概要 今野哲也

 来る2013年3月31日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第12回東京例会で発表する、今野哲也氏の発表概要を掲載いたします。

 「ベルク〈山々を越えてÜber den Bergen〉の2つの版に見られる作曲的解釈の相違」 
  今野哲也

 アルバン・ベルク(Alban Berg 1885-1935)は、生涯に95曲もの歌曲を創作したが、《初期の7つの歌Sieben frühe Lieder》など、彼の生前に出版された19曲を除くと、その大半が兄や妹と一緒に、家庭内で演奏することを目的に書かれたものであった。本発表が対象とする〈山々を超えて〉も、そうした作品の一つで、《ユーゲント・リーダー Jugend Lieder》の第2巻、第43番として分類されている曲である。和声語法や書式の観点から見てもその完成度は高く、習作として見過すことのできない作品と捉えうる。ところで、ベルクは〈山々を超えて〉を完成させた後、中間部分を完全に異にする別の版を作り上げている。本発表は歌詞、和声、および和声構造の分析を通じて、ベルクが何故、作曲上の解釈を翻したのかを考察する。

 〈山々を超えて〉の歌詞は、ドイツの詩人カール・ブッセ(Karl Busse 1872-1918)によるもので、全6行から成る歌詞は、韻律や統語論の観点から3つのペアに分解し得る。特に中間の2つの行では、旅路に就いた主人公が挫折して戻ってくる様子が描かれ、構造的にもコントラストを成す部分と言うことができる。ベルクは当初、この部分の中心的な調としてEs-durを置いたが、後にCis-dur/cis-mollを中心とする構造に変更している。「英雄」や「三位一体」などに関連付けられることも多いEs-durを敢えて斥け、Cis-dur/cis-mollを使用することで、挫折を味わう以前の主人公のポジティヴな心情が、より強調される結果になったと解釈する。そして、このような解釈の相違が生まれる背景には、ベルクの文学的造詣の深さが関わっていると、本発表は結論付ける。

第12回東京例会発表概要 寺内克久

 来る2013年3月31日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第12回東京例会で発表する、寺内克久氏の発表概要を掲載いたします。

「《Autumn Leaves》(1950) のアレンジバリエーションにみるジャズ表現の可能性」 寺内克久

 1945年、フランスの振付家であるローラン・プティ(Roland Petit, 1924-2011) が手がけたバレエ《Le Rendez-vous》(1945)の伴奏音楽として作曲家ジョセフ・コスマ(Joseph Kosma, 1905-1969) が作ったこのメロディは、やがてマルセル・カルネ監督(Marcel Carné, 1906-1996)の映画『夜の門』(Les Portes de la Nuit, 1946) にて《Les Feuilles mortes》(フランス語:《枯葉》)となり、以後シャンソンの歌手による数々のカバーが生まれた。1950年、アメリカでジョニー・マーサー(Jonny Mercer, 1909-1976)によって英詩《Autumn Leaves》(英語:《枯葉》)が世に発表され、その後ジャズ・ポピュラーの世界に広く知れ渡るスタンダードナンバーとなった。 本発表は、この《枯葉》をテーマにしたジャズのハーモナイズ(和声付け)の様々なバリエーションを考察する。

 古今のジャズ演奏者たちは与えられたテーマをもとに、リズム、和声、旋律、楽器編成等を駆使して、音楽表現の可能性を豊かに拡張してきた。ジャズの歴史で数々生まれた《枯葉》の名演奏は、それぞれがいまだに大きな魅力を放っている。

 本発表前半ではスタン・ゲッツ(Stan Getz, 1927-1991)、ビル・エヴァンス(Bill Evans, 1929-1980)、マッコイ・タイナー(McCoy Tyner, 1938- )、ロン・カーター(Ron Carter, 1937- )、チック・コリア(Chick Corea, 1941- )ら、ジャズの巨匠達の《枯葉》のハーモナイズを分析する。

 後半では、発表者による編曲の事例を通して、和声を「響きの固まり」として、自由に和声連鎖を作る「不定調性和声連鎖」というハーモナイズの試みについても考察する。

 本発表で分析するジャズ和声やハーモナイズに関して、クラシック音楽の分析法の側からの提言をいただければ幸いである。