2012年9月21日金曜日

浅田秀子氏の著作要旨、オーストリアのweb雑誌に掲載される!

ヴィーンのフランツ・シューベルト・インスティテュートのweb雑誌「Sparks & Wiry Cries (火花と金切り声)」に、浅田秀子氏の著作『シューベルト「冬の旅――冥界のヘルメス」解釈と演奏法』の英訳要旨が掲載されました。これを機に優れた翻訳者が名乗り出てくれることを期待しているとのことです。

Sparks & Wiry Cries
http://www.sparksandwirycries.com/

2012年9月19日水曜日

第21回例会発表概要 川本聡胤

 来る2012年10月7日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第21回例会で発表する、川本聡胤氏の発表概要を掲載いたします。

  タルカス ―― プログレッシヴ・ロックの研究 川本聡胤

 1950年代中頃、若者の間で、ある新しいスタイルの音楽が生まれた。それは、駆り立てるようなリズムと、大音量のギターや電気的に増幅されたヴォーカルを特徴とし、また分かりやすい歌詞と、ブルーズ和声およびブルーズ形式に基づくもので、人々はそれを「ロックンロール」と呼んだ。ロックンロールは、ある意味で、大人の聴くクラシック音楽の対極に位置するものといえる。事実、クラシック音楽に見られるような込み入ったリズムや繊細な生楽器、文学的な歌詞と難解な和声や形式などは、ロックンロールには一切見られないからだ。ロックンロールという音楽は、その意味で、クラシック音楽に反抗して生まれた音楽といってもいい。

 ところが、1960年代末頃になると、次の世代の若手ロック・ミュージシャンたちは、もっと新しいタイプのロック音楽に飢えるようになった。彼らによると、ロック音楽というものは、クラシック音楽の対極というだけの位置付けに甘んじるべきではない。ロック音楽は、従来のロックンロールとクラシック音楽とを、より高いレベルで統合した、もっと包括的な音楽へと進歩(progress)するべきというのである。そして彼らは、ロックンロールの要素と、クラシック音楽の要素とを自由に織り交ぜた、新しいタイプの音楽を生み出した。それはプログレッシヴ・ロックと呼ばれ、1960年代末から1970年代末までの約10年間、ポピュラー音楽界を風靡した。しかも彼らの努力のおかげで、ロック音楽はその音楽語法を飛躍的に拡大することになり、その後のロック音楽は大いに多様化することになる。その意味で、ロック音楽史におけるプログレッシヴ・ロックの重要性は、計り知れないものがある。

 本発表では、以上の背景をふまえ、具体的な楽曲分析を通して、プログレッシヴ・ロックがクラシック音楽の要素をどのように取り入れたのかに関する考察を行う。特にここで分析作品として選んだのは、エマーソン・レイク・アンド・パーマー(ELP)による1972年作『タルカス』である。エドワード・マカンによれば、これはプログレッシヴ・ロックの4大傑作の1つである。またこの曲の中には、モーツァルトやベートーヴェン、ブラームスやワーグナー、そしてバルトークやストラヴィンスキーなどといった、古典派、ロマン派、20世紀のクラシック音楽の要素が見いだされる。これらがどのようにロック音楽的な要素と融合されているのかについて、本発表では、参加者とともに洗いざらい分析していくことができればと思う。

2012年9月7日金曜日

日本音楽理論研究会第21回例会(10月7日)開催のお知らせ

Announcements
The 21th meeting of SMTJ
7. October 2012

関係者各位
響き渡る蝉の声とともに東京は暑い夏が遠のきつつありますが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか?
毎度お馴染みの日本音楽理論研究会第21回例会のお知らせです。

今回は、2発表ともに当研究会では初めてのジャンルで、まず、日本の民俗音楽への洋楽の影響を文化人類学の立場からの分析、次には、NHK大河ドラマ『平清盛』でも吉松隆によるオーケストラ版が使われているプログレッシヴ・ロックの代表的作品であるエマーソン・レイク&パーマーの《タルカス》の分析です。
自由なディスカッションの時間をゆったり取る予定ですので、みなさまの奮ってのご参加をお待ちしております。

なお、当日資料準備のため、ご出席の場合はご一報いただければありがたく存じます。
また研究会終了後、「シュベール国立店」で行なわれる懇親会は毎回議論が白熱しております。こちらからのご参加も歓迎いたします。

★★★ 日本音楽理論研究会第21回例会のお知らせ ★★★

日時: 2012年10月7日(日)13:30-17:40 (13:10 受付開始)
会場: 国立音楽大学AI(アイ)スタジオ (JR国立駅南口下車、国立音楽大学付属幼稚園地下) 
〒186-0004 東京都国立市中1-8-25 TEL: 042-573-5633
参加費: 一般¥2000/学生¥1000 

■ 「洋楽渡来と野生の思考(パンセ・ソバージュ) ―洋楽流入期における民俗的思考に関する構造人類学的研究―」 川崎瑞穂 

■ 「プログレッシヴ・ロックの研究 ~ELP《タルカス》の分析~」 川本聡胤

※ 今後の活動予定 (会場はすべて「国立音楽大学AI(アイ)スタジオ」、参加費 ¥2000/学生¥1000) 

☆ 第11回東京例会 2012年12月16日(日) 12:30-17:40 =ベートーヴェン特集=
■ (12:30-) 「単純な和声に支えられた単純な動機から作りだす壮大な展開(ドラマ)」 大野聡
■ (15:00-) 「ベートーヴェンの新しい道」 佐野光司

☆ 第12回東京例会 2013年3月24日(日) 13:30-17:30 
■ 「続・シューベルト『冬の旅』の裏物語--冥界のヘルメス」 浅田秀子 他未定

☆ 第22回例会 2013年5月19日(日) 13:30-17:40 
=リヒャルト・ヴァーグナー生誕200年特集=
■ 「トリスタン和声が醸し出す妖しい響きについて」 見上潤 
■ 「ワーグナーにおけるドミナントの拡大について」 礒山雅

Secretariat of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会事務局(本部)
ホームページ:http://sound.jp/mtsj/
〒870-0833 大分市上野丘東1-11 大分県立芸術文化短期大学音楽科 小川研究室気付 
TEL &FAX 097-545-4429
Email: ogawa@oita-pjc.ac.jp
本部facebook: http://www.facebook.com/groups/205456326182727/

Tokyo branch of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会東京支部 (見上潤 Mikami Jun)
ブログ: The Society For Music Theory Of Japan, Tokyo http://smtjt.blogspot.com/
ホームページ: http://www.geocities.jp/dolcecanto2003jp/SMTJ/index.htm 

2012年9月5日水曜日

第21回例会発表概要 川崎瑞穂

 来る2012年10月7日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第21回例会で発表する、川崎瑞穂氏の発表概要を掲載いたします。

               洋楽渡来と野生の思考(パンセ・ソバージュ)
 ― 洋楽流入期における民俗的思考に関する構造人類学的研究 ―   川﨑瑞穂

 私は「民俗芸能とその音楽に関する構造人類学的研究」というテーマの下、学部以来日本各地の民俗芸能を研究しており、「山林音神考――天狗信仰とその音楽に関する構造人類学的研究――」という卒業論文を執筆した。当論文の趣旨は、端的にいえば「民俗芸能における天狗舞の音楽の分析」である。実際にフィールドワークを行った10個の民俗芸能から、天狗面の演者が舞う演目(天狗舞)を取り出してその囃子を採譜・分析し、その音楽的諸特性が、天狗信仰の諸特性とどのような構造的連関を有しているのかを、二項対立を中心としたレヴィ=ストロースの構造分析理論を用いて研究したのが、この卒業論文であった。
 
 しかし、レヴィ=ストロースに代表される構造論的分析は、このような局所的なテーマのみに限らず、さらに多くの日本音楽の領野に応用可能なものである、と私は考えている。特に、構造論的観点からみると、幕末~明治にかけての日本の音楽受容は非常に興味深い。なぜならそこには、自らの文化的構造の範疇にない西洋という「他者」が、構造の中に侵入してくる際の、民俗的思考の反応がまざまざと表れているからである。

 本発表が求めるところは、そのような民衆の異文化に対する反応を、幕末~明治の洋楽受容の中に見る、ということにあり、そこでは無論、黒船来航とその音楽に接した人々の様子を文献上で拾い上げる作業も行われるが、今回はむしろ、西洋音楽が、日本の民間レベルの音楽実践にどのような影響を与えたのかということを、楽曲分析から考察した。事例としては、千葉県の香取神宮に伝承されている「おらんだ楽隊」と呼ばれる芸能を中心に採り上げたが、この芸能は、洋楽を既存の囃子に組み込むことで成立した、特殊な芸能である。分析の中で、この「おらんだ楽隊」という芸能の形態や、その囃子の音型には、民俗的思考の「洋楽」理解が反映されているのではないか、という仮説に到達した。今回はこの結果を、レヴィ=ストロースが野生の思考の特性として挙げる「ブリコラージュ」によって説明してみたい。

 本発表はその論を大きく2つに分ける。第1章では、洋楽に初めて接した人々の反応を通じて、洋楽流入における日本側の民俗的思考のあり様を描写する。第2章では、その洋楽を、日本の民間レベルではどのように捉え、それを享受したのかについて、「おらんだ楽隊」を中心に、今日伝承されている民俗芸能の分析を通して考察する。