2012年9月5日水曜日

第21回例会発表概要 川崎瑞穂

 来る2012年10月7日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第21回例会で発表する、川崎瑞穂氏の発表概要を掲載いたします。

               洋楽渡来と野生の思考(パンセ・ソバージュ)
 ― 洋楽流入期における民俗的思考に関する構造人類学的研究 ―   川﨑瑞穂

 私は「民俗芸能とその音楽に関する構造人類学的研究」というテーマの下、学部以来日本各地の民俗芸能を研究しており、「山林音神考――天狗信仰とその音楽に関する構造人類学的研究――」という卒業論文を執筆した。当論文の趣旨は、端的にいえば「民俗芸能における天狗舞の音楽の分析」である。実際にフィールドワークを行った10個の民俗芸能から、天狗面の演者が舞う演目(天狗舞)を取り出してその囃子を採譜・分析し、その音楽的諸特性が、天狗信仰の諸特性とどのような構造的連関を有しているのかを、二項対立を中心としたレヴィ=ストロースの構造分析理論を用いて研究したのが、この卒業論文であった。
 
 しかし、レヴィ=ストロースに代表される構造論的分析は、このような局所的なテーマのみに限らず、さらに多くの日本音楽の領野に応用可能なものである、と私は考えている。特に、構造論的観点からみると、幕末~明治にかけての日本の音楽受容は非常に興味深い。なぜならそこには、自らの文化的構造の範疇にない西洋という「他者」が、構造の中に侵入してくる際の、民俗的思考の反応がまざまざと表れているからである。

 本発表が求めるところは、そのような民衆の異文化に対する反応を、幕末~明治の洋楽受容の中に見る、ということにあり、そこでは無論、黒船来航とその音楽に接した人々の様子を文献上で拾い上げる作業も行われるが、今回はむしろ、西洋音楽が、日本の民間レベルの音楽実践にどのような影響を与えたのかということを、楽曲分析から考察した。事例としては、千葉県の香取神宮に伝承されている「おらんだ楽隊」と呼ばれる芸能を中心に採り上げたが、この芸能は、洋楽を既存の囃子に組み込むことで成立した、特殊な芸能である。分析の中で、この「おらんだ楽隊」という芸能の形態や、その囃子の音型には、民俗的思考の「洋楽」理解が反映されているのではないか、という仮説に到達した。今回はこの結果を、レヴィ=ストロースが野生の思考の特性として挙げる「ブリコラージュ」によって説明してみたい。

 本発表はその論を大きく2つに分ける。第1章では、洋楽に初めて接した人々の反応を通じて、洋楽流入における日本側の民俗的思考のあり様を描写する。第2章では、その洋楽を、日本の民間レベルではどのように捉え、それを享受したのかについて、「おらんだ楽隊」を中心に、今日伝承されている民俗芸能の分析を通して考察する。

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