2014年3月21日金曜日

日本音楽理論研究会第14回東京例会 発表概要  大高誠二

「拍節の中の和声~「音の重なり」を超えて」

 和声は一般的に、ただ和音の連続として捉えられ、個々の和音がそれぞれ長さを持っていることがあまり意識されていないように思われる。だが、例えばアルペジオを1つの和音とみなすことができるのはなぜだろうか?それは、ある範囲にある音を合計して捉えているからである。我々は「音の重なり」としての和音の連続で和声理論を理解し、多くの音楽現象をこのモデルに還元して捉えている。

 だがこの還元は、実際には多くの前提を必要とする。我々は経験と勘によって容易くこの還元を行うが、その前提が意識されることは稀である。1つの例を挙げよう。アルペジオの形でトニックの直後にドミナントの根音が続くような場合、なぜドミナントの根音はトニックの5度音とみなされないのか。おそらく、そこで和音が変わったという認識を我々に与えている別の要因がある。発表者はこの第一の要因として拍節()を考える。和声が小節ごと、あるいは拍ごとに変わるのは、和声の変化が拍節の変わり目で起こるためである。

 本発表では、以上の考えを推し進め、拍節の側からの和声の新たな見方を提案し、「音の重なり」として和音を捉えることで隠されてしまう前提を炙り出し、和音概念の深化を目指す。この提案はまた、拍節を捉えるための、音の強弱以外による視点の探索の意義も持つものだ。拍節が和声に影響を与えているとすれば、それは強拍の周期的な回帰といった伝統的な拍節概念に重要な楔を打ち込むことになるからである。なお、分析素材としてバッハのフーガを用いる予定である。


(本発表では、小節、拍、拍の部分、あるいは複数の小節からなる高次小節などの構造を一般的に拍節と呼ぶ。)

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